在庫は、なぜか合わない。でも、原因は誰にも分からなかった。
創業60年を超える地元の和菓子メーカー。看板商品は季節ごとに安定した人気を誇り、店頭・EC・卸・贈答向けなど複数の販路を持つまでに成長していた。しかし成長するほど、「今、どれだけ在庫があるのか」を誰も正確に把握できなくなっていった。
製造ラインの仕込み状況、店舗の陳列在庫、ECサイトの在庫数は、それぞれ別の帳簿・別の担当者が管理しており、リアルタイムで一致していなかった。繁忙期には店舗で「売り切れ」と表示されている商品が、実は工場に在庫として眠っているということも珍しくなかった。
結果として、欠品による機会損失と、過剰生産による廃棄ロスが同時に発生する状態が続いていた。
在庫は、動いていないだけで存在していた。見えていないことが、利益を圧迫していた。
「在庫」を、部署ごとの管理からひとつの数字へ統合する。
BXはまず、店舗・EC・製造の3拠点でそれぞれどのように在庫が動いているかを棚卸しした。原材料の仕込みから、製造、店舗への配分、EC出荷までの流れを一本の線として整理し、どこで情報が途切れているかを特定した。
次に、在庫を「モノ」ではなく「数字」として一元管理するための設計を行った。店舗・EC・製造それぞれの在庫データを、共通のIDと単位で管理できる構造に整理し、どのチャネルから見ても同じ数字が見える状態を目指した。
重要だったのは、新しいシステムを入れることより先に、「何を、どの単位で、誰が更新するか」というルールを社内で合意することだった。仕組みより先に、運用の型を決めることを優先した。
店舗・EC・製造の在庫を、ひとつの画面で見える状態にする。
POSレジ・ECカート・製造管理表をクラウド上の在庫管理システムに接続し、店舗・EC・製造の在庫数をリアルタイムで一元管理できる基盤を構築した。既存のレジやECカートを刷新するのではなく、間に在庫管理のハブとなる仕組みを挟むことで、現場の負担を抑えた設計とした。
在庫が一定数を下回ると製造チームに自動で通知が届く仕組みも実装し、欠品が起きる前に仕込みを始められる体制を整えた。逆に在庫が積み上がっている商品は、EC側での販促に回すといった判断も可能になった。
導入後は、月次で在庫の動きを確認するミーティングも設計し、数字を見ながら生産計画を調整する運用に切り替えた。
実装期間:約4か月。現場のオペレーションを止めないことを前提条件に、段階的に切り替えを進めた。
在庫が「分からないもの」から、「経営判断の材料」に変わった。
仕組みの稼働から半年後、店舗・EC・製造の在庫は同じ数字で管理されるようになり、欠品と廃棄ロスの両方が大きく減少した。特に贈答需要が集中する時期には、事前に在庫と生産計画をすり合わせられるようになったことで、機会損失を最小限に抑えられるようになった。
「感覚で仕込み量を決めていた」状態から、「数字を見て仕込み量を決める」状態へ移行したことで、現場の判断にも変化が生まれた。社長からは「在庫が、経営の言葉で語れるようになった」という言葉があった。